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ル動詞とは?

ル動詞

 ル動詞とは、「名詞などの語頭2拍から4拍を語基として、そこに語幹末尾子音 r を付けて作られた子音語幹動詞」(上野 2016: 122)のことです。具体的には「事故る(jikor-u)」「告る(kokur-u)」「やじる(yajir-u)」「ミスる(misur-u)」「バグる(bagur-u)」などが挙げられます。ル動詞の造語過程に注目すると、名詞にそのまま「る」を付けた「事故る」「ミスる」「皮肉る」や、名詞の一部を語基としてそれに「る」をつけた「告る」「ハモる」「タクる」「拒否る」、オノマトペの一部を語基としてそれに「る」をつけた「ボコる(←ボコボコ)」「テカる(←テカテカ)」「ポチる(←ポチッ、ないしポチポチ)」などが見られます。

 (1) 事故る(jikor-u)
 (2) 告る(kokur-u)
 (3) やじる(yajir-u)
 (4) ミスる(misur-u)
 (5) バグる(bagur-u)

 語基となる名詞の語末が「る」であるような「トラブル(Trouble)」「ダブル(Double)」「スメル(Smell)」などは新たに「る」をつけることなく、そのままの形で「トラブる(torabur-u)」「ダブる(dabur-u)」「スメる(sumer-u)」とル動詞を作ります(→逆成)。「グーグル」「ハーモニー」などの長音が含まれる語については、その長音を除いた2拍で語基を形成して「ググる」「ハモる」となります。母音である長音は五段動詞(子音語幹動詞)であるル動詞の動詞語幹末尾音になれないために抜け落ちます。

 ル動詞「告る」を例にとると「告らない(kokur-anai)」「告ろう(kokur-ou)」「告れ(kokur-e)」のように五段動詞と同じ活用をするため、ル動詞は語幹に動詞化する「る」をつけて作った五段動詞と説明されることが多いです。(正確にいうと、語基に派生接辞 -r を付けて五段動詞語幹を作り、それに屈折接辞 -u を付けた語。詳しくは後述。)
 これらのル動詞は若者ことばであり、口語として用いられます。

ル動詞はなぜ五段動詞(子音語幹動詞)になるか

 動詞の末尾音に注目すれば、五段動詞は「る」以外にもその他ウ段の音で終わるのに対し、一段動詞は全て「る」で終わるという形態的特徴が見られます。にもかかわらず、「る」で終わるル動詞は一段動詞ではなく、五段動詞となるのはなぜでしょうか。

 【ル動詞が一段動詞である場合の形態素境界】
 (6) *テカる(teka-ru)
 (7) やじる(yaji-ru)
 (8) *告る(koku-ru)
 (9) スメる(sume-ru)
 (10) *事故る(jiko-ru)

 一段動詞は「起きる(oki-ru)」「食べる(tabe-ru)」のように動詞語幹末音が母音 i,e のどちらかである動詞を指します。しかし、語基に「る」をつけて一段動詞のル動詞を作ったとしても語基の末尾音は必ずしも i,e になるとは限りません。例えば(6)(8)(10)は語基の末尾音が a,u,o であり、一段動詞が持つ形態的特徴を有していません。「る」をつけて一段動詞を作るには語基の末尾音が i,e でなければならないという制約がありますが、この制約を満たす語基は多くないために(6)(8)(10)のような例が生じてしまいます。

 【ル動詞が五段動詞である場合の形態素境界】
 (6’) テカる(tekar-u)
 (7’) やじる(yajir-u)
 (8’) 告る(kokur-u)
 (9’) スメる(sumer-u)
 (10’) 事故る(jikor-u)

 一方、語基に「る」を付けて作ったル動詞が五段動詞となる場合、その形態素境界は(6’)~(10’)のようになります。すると動詞語幹末尾が全て r となり、語幹末尾音が子音であるという五段動詞の形態的特徴を有します。
 「る」を付けたときの形態素境界を /語基-ru/ として一段動詞とみなした場合は語基の末尾音が i,e でなければならないという制約を満たさないのに対し、/語基r-u/ として五段動詞とみなした場合は語基の末尾音が子音でなければならないという制約を全て満たします。したがって後者の方法でル動詞を作るほうが造語力が高く、文法的に適格であるため、ル動詞は五段動詞となると考えられます。よってル動詞は正確に言うと、語基に派生接辞 -r を付けて五段動詞語幹を作り、それに屈折接辞 -u を付けた語と言えます。

 (ル動詞「たそがれる」は例外的に一段動詞)

参考文献

 上野義雄(2016)『現代日本語の文法構造 形態論編』122-128頁.早稲田大学出版部




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