参照点能力とは?

参照点能力

 換喩(メトニミー)の基盤となっている人の認知能力として、参照点能力があります。参照点能力とは、直接捉えることができない対象を、それと隣接関係にあるものを媒介として間接的に捉えようとする認知能力のことです。

 例えば、我々は釣りをするとき、水面下で何が起きているかは直接見ることはできません。そこで釣り糸につけたウキを水面に浮かせ、そのウキがどのような動きをしたかを通して、水面下で何が起きているのかを間接的に捉えようとします。我々は直接知りたいものが見えないとき、見えるものを基準として、その向こう側の状態を把握しようとします。このとき、ウキのような媒介物を参照点(reference point)と呼びます。

 こうした参照点は、身近にもたくさんあります。
 「風」がどのようであるかを捉えるために、風見鶏や旗、木々の葉っぱの揺れなどを参照するはずです。遠くで煙が見えたら、その煙を参照点として、その発生源で火事があるのではないかと考えるでしょう。灯台の存在も、船が自分の位置を把握するための参照点と呼べます。車の運転中は直接振り返って後方を確認することは危ないため、バックミラーという参照点を利用して後方を確認したりします。

参照点 間接的に捉えようとするもの
風見鶏、旗、木々の葉っぱ
火事
灯台 位置
バックミラー 後方

言語表現と参照点能力

 参照点能力は言語使用にもかかわります。例えば、道案内をするときは、あそこの郵便局を右に曲がって」「次の交差点を左に曲がって」などと、郵便局や交差点といった目立つもの建物や構造物を参照点とすることが一般的で、目立たないものを参照点として「マンホールのところを右に」や「ガードレールがあるところを左に」というような道案内は稀です。

 その他、↑の写真を見てください。この写真にはテーブルとペンが見えますが、これらの位置関係を表すとき、一般に「テーブルの下にペンが落ちています」というはずです。逆に「ペンの上にテーブルがあります」という人はかなり稀だと思います。つまり、この写真を見たときに、テーブルとペンでは、テーブルのほうがより認知的に際立つため、テーブルを参照点としてペンの位置を捉えようとします。こうした表現は他にもあり、「田中さんの弟」と言って、よく知っている「田中さん」を参照点としてよく知らないその「弟」を指し示したり、「昼休み」を参照点として「昼休みの1時間前」と言ったりするような例があります。

 赤い本の下の本
 鈴木さんの奥さん
 青森は北海道の下にある
 授業が始まる10分前
 テレビの横にある箱

「顔が濃い方」事件

 高市さんが2025年9月19日に開いた自民党総裁選への立候補表明の記者会見で、その司会を務めた黄川田仁志衆院議員が記者の指名に際して「ちょっと顔が濃い方」と言ったのが炎上してました。こちらの動画からご覧になれます。

 この発言の賛否は置いておくとして、この司会者にとっては会見に来た記者の名前を知らないため、それに隣接した事物である「顔」の特徴を参照点として特定の記者を指しています。司会者にとっては顔の特徴がより目立つものであり、参照点となっている例です。

参照点能力と換喩

 換喩は参照点能力を基盤とする比喩です。

 (1) テーブルを片付ける。
 (2) 前の車は運転が荒い。
 (3) 米津玄師を聴いた。

 (1)の「テーブル」は、それに隣接する「テーブルの上の物」を指す場合があります。テーブルの上の物よりもテーブル自体が認知的に目立つため、これが参照点となっています。(2)では、前の車を運転している人物は後ろからは直接見ることができないため、目立つ事物である「前の車」を参照点として、それに隣接している運転手を指し示しています。(3)は「米津玄師」で「米津玄師の曲」を指しており、曲よりもより目立つ作り手が参照点となっています。
 換喩については「換喩(メトニミー)とは?」に詳しくまとめています。

参考文献

 辻幸夫(2003)『認知言語学への招待(シリーズ認知言語学入門(第1巻))』74-75.大修館書店
 籾山洋介(2010)『認知言語学入門』48-50.研究社




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