ラポート・トークとレポート・トークについて(Tannen 1990)

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ラポート・トークとレポート・トークについて

 一般に夫婦間のコミュニケーションにおいては妻がほとんどの時間を話し、夫はあまり話さないという傾向があり、この見立てから「女性はおしゃべり好きだ」のようなステレオタイプが広まっています。しかし一方で、男女交えて議論するような場面では基本的には男性がよく話し、女性はあまり話さない傾向が見られます。Tannen(1990)はこうした矛盾した現象を研究し、女性と男性の話し方をそれぞれラポート・トーク(rapport-talk)、レポート・トーク(report-talk)と呼び分けました。

ラポート・トーク(rapport talk)

 ほとんどの女性にとっては、他者と良好な関係(rapport)を築くために話をします。子どもの頃から他の人より目立とうとしたり、自分を優れて見せようとする仲間を批判し、お互いの似ている点や同じ経験をしていることを強調して話すことが求められます。したがって、そのような良好な関係を築けている人々といるときのプライベートな発言(private speaking)が心地よく感じます。こうした女性の話し方はラポート・トーク(rapport-talk)と呼ばれています。

 上述したように、女性がラポート・トークをするのは子どもの頃の成長過程における言語の使い方にあります。女の子は最も親しい関係である親友を中心とした社会生活を送り、親友と秘密を打ち明け合うことでそれが維持されます。大人の女性になっても、その日に起こった出来事やその時何を言ったか、どんな気持ちになったか、そしてお互いが考えていること、感じていることを話したりして親しい関係を維持します。
 公的な場面であれば必ずレポート・トークが行われるわけではなく、公的な場面、例えばスピーチのような場面であっても、個人的な話を交えたものであればラポート・トークになることもあります。

レポート・トーク(report talk)

 ほとんどの男性にとって話すことは階層的な社会秩序の中で自身の地位を確立する手段で、知識や技術を示すこと、物語を語ること、冗談を言うこと、情報を伝えたりすることでそれが実現されます。子どもの頃から地位を確立するためにそのような話し方をして注目を集めることを学ぶので、したがって男性はあまり知らない人々で構成されたグループで話す公的な発言(public speaking)に慣れています。このような話し方は他者との良好な関係を築くラポート・トークとは異なり、レポート・トーク(report-talk)と呼ばれます。

 男性は必ずどのような場面でもレポート・トークをするというわけではなく、また女性もレポート・トークをしないわけではありません。会話に参加する人が増えたり、会話相手が親しくなかったり、また社会的地位の違いは大きくなるほどその会話はレポート・トークに近くなりますが、人数が少なく、相手と親しく、社会的地位が平等であればあるほどレポート・トークに近くなります。どのような場面が公的な場面だと感じるかは男女で異なり、女性は①男性がいる場合、②家族以外の人がいる場合に公的であると感じるとされています(Tannen 1990: 89)。

話し方の違いによる衝突とその是正

 夫婦が喧嘩をするとき、女性はその時思っていること、思いついたことをそのままストレートに表現し、一方男性はそれを黙って聞くような構図がよく見られます。女性は親しい人々とラポート・トークを行う中で自分の考えや感情をそのまま表現して関係を築くことを習慣としてきて、それをすることが当たり前だと感じているため、何も言わない男性に対しては「何も考えていない」と感じることがあります。しかし男性にとっては自分の一時的な考えを話す習慣はないので、何も考えていないわけではなく、何かを考えていてもそれを話さないという選択を自然に行います。男性は自分の社会的地位が問われるような場面、かつ何らかの印象を与えなければならないと感じる場面(いわゆる公的な場面)であればあるほど最も話す傾向があるので、夫婦喧嘩のようなプライベートな場面では話の量が少なくなります。

 このような夫婦喧嘩ではしばしばお互いを非難したり、関係に亀裂が入ったりしますが、Tannen(1990 :94-95)はプライベートな場面と公的な場面、ラポート・トークとレポート・トークといった概念を用いてお互いの会話の仕方を理解することで誤解を避けることができると述べています。例えば、女性は会議等の場面で男性ばかりが話をしている状況を「男性が会議を支配し、女性の参加を妨げようとしている」と考えるのであれば、それは誤解です。また男性が「女性は会議であまり話さない」と考えるのもまた不当な誤解です。女性と男性の話し方について理解することで、女性は自身の会議への貢献が不足していることを認識して、促されなくても積極的に発言するストラテジーを取ることもできますし、男性は女性が公的な場面で話すことに男性ほど慣れていないことを認識して、自身の発言を調整したり、女性に発言を促したりと対策を講じることができます。こうした配慮についてTannenは、どちらか一方が行われるだけでは不十分で、両方が行ってこそ不均衡が是正されると述べています。

参考文献

 Tannen, D. (1990). You just don’t understand: Women and men in conversation. New York:Ballantine.




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