令和7年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題13解説
問1 音の聞き間違い
選択肢1
これは「もうすぐ」の時間間隔による誤解です。日本語母語話者の中でも「もうすぐ」というとだいたい何分程度なのか個人差があるように、言語や文化が違えばその差はもっと大きくなるかもしれません。40分が「もうすぐ」の世界とは… 日本語だと考えられないですね。
選択肢2
「しちじ」を「いちじ」と聞き間違ったようです。これが音の聞き間違いによる誤解。
選択肢3
「無色」と「無職」は語形もアクセントも同じですが、眼鏡屋さんでわざわざ仕事の有無を聞くはずがないですね。この誤解はコンテクストに依存してことばの意味を理解していないようなので、低コンテクスト文化の学習者かもしれません。これは語用論的な誤用。
選択肢4
「あの」が指すものが2人の間で共有できていなかったようです。指示詞が指すものを間違えたことによる誤用です。
答えは2です。
問2 主語と述語の対応関係
選択肢1
【解釈①】[母が]祖母と父が出かけたあとで[帰ってきた]ようです
【解釈②】[母が祖母と]父が出かけたあとで[帰ってきた]ようです
【解釈①】では主語の「母」が帰ってきましたが、【解釈②】では母が祖母と一緒に帰ってきた解釈になります。述語「帰ってきた」の主語には必ず「母」が含まれますけど、述語の動作を共にする人に「祖母」が含まれるかどうかが確定できず、あいまいになっています。述語に対する主語の範囲が決まっていないということで下線部Bに合致します。この選択肢が答え。
選択肢2
多義性はなし。解釈は一つです。
選択肢3
「大きな犬の鳴き声」に注目すると、犬が大きいのか、犬の鳴き声が大きいのかの2つの解釈あって多義的です。この選択肢は修飾部「大きな」と被修飾部の関係にかかわる多義性であり、主語と述語の対応関係による多義性ではありませんので、下線部Bに反します。この選択肢は間違い。
選択肢4
「佐藤さん」はただの呼びかけ。多義性はありません。
答えは1です。
問3 協調の原理
協調の原理とは、私たちの会話にあるルールのことです。例えば、私たちは経済の話をしているところで急に宇宙の話をし始めたりしません。そうしない理由は、会話には関係がある内容で進めるというルールがあるからにほかなりません。こういうルールはグライスによって4つに分けられました。
量の公理 … 要求されただけの情報を与える
質の公理 … 嘘や証拠のないことを言わない
関連性の公理 … 関係があることを言う
様態の公理 … あいまいな言い方をしない
グライスはこの4つのルールをわざと破ると裏の意味(会話の推意)が生まれると言っていますが… 裏の意味の話はこの問題を解くのに必要がないので省略! 詳しくは「協調の原理」をご覧ください。
選択肢1
Xさんはどこにお出かけするか聞きたいのに、Yさんは「そこら辺」という曖昧な返事をしていますから様態の公理に違反しています。ただ、少ない情報量で返答しているとも考えられるので、要求されただけの情報を与えていないので量の公理に違反しているとも言えます。まあ微妙な選択肢です。
選択肢2
何時から映画が始まるか聞いていますから、何時何分と答えることをXさんは期待しています。しかし「夜」ですよと正確な時間ではない回答をしています。要求されただけの情報を与えていないので量の公理に違反しています。この選択肢は間違い。
選択肢3
「ゲームしてもいいか」に対しては「してもいい」「してはいけない」の2通りの返事が考えられます。しかし、塾があるという関係のない話をしています。関連性の公理に違反していて、それによって「ゲームをしてはいけない」という裏の意味を表出しているように見えます。この選択肢が答え。
選択肢4
「AはBだ」という文は、「彼は学生だ」のように「彼=学生」であること、つまり異なるものが同じであることを表す文型です。しかし「子供は子供だ」は「子供=子供」であることを表していて、情報量としては0です。情報量が足りないということで量の公理に違反しているわけです。この選択肢は間違い。
答えは3です。
問4 命題と発話意図
田中さんは本当にお忙しいんですね。
この発話の文字通りの意味(命題)は、”田中さん(部下)は本当に忙しいんだね”です。
でも部下に対して「お忙しい」と尊敬語を使っていたり、丁寧語「です」を使っていることで発話意図が命題と異なるものになります。おそらくこの上司の発話意図は、「締切日は今日なのに今まで何してたの?」くらいの意味でしょう。気持ち悪い嫌味です。
必要のない敬語を用いたことで発話意図に影響を与えました。
答えは3です。
問5 ケース学習
ケース学習とは、個々の特定の事例を通してそれがなぜどのように生じたのかを明らかにするために分析する活動のことです。誤解の事例をケースにしてみんなで話し合うような活動をするときに教師が注意すべき点とは…
選択肢1
解決方法はさまざまありそうだから、学習者全員に同じような意見を持ってもらう必要はないです。例えば身体動作を使って解釈を1つにするとか、さらに言葉を尽くして解釈を絞るとか、いろんな方法がありますから。この選択肢は間違い。
選択肢2
誤解の解決方法はたくさんありますが、念のため母語話者である教師から模範となる答えを最後に学習者に提示すると安心させられるのでいいと思います。が! 教師の意見を答えとして述べるのはダメ。この選択肢は間違い。
選択肢3
ほかの人の意見を聞きながら考えを深めたほうがいいです。この選択肢は間違い。
選択肢4
これが答え。
答えは4です。

コメント
コメント一覧 (7件)
問3の1はXが聞きたい情報をYが与えていないため「量の公理」だと思い、1にしました。
「関係性の公理」はいきなりまったく話の流れに関係ないことを言うもので「今から塾があるから、ゲームは駄目」と言いたいのが分かるような遠回し表現のようなものは公理には反していないと考えました。
>雪さん
問3 選択肢3について
「ゲームをしてもいい?」というのは字義的には「ゲームをしてもいいか、してはだめか」ということを問う表現です。ご指摘の「今から塾があるから、ゲームはダメ」という意味は字義的な意味ではなく、協調の理論でいう会話の推移(裏の意味)です。この発話に裏の意味が感じられるということは何らかの公理に違反していると考えられるため、やはり選択肢3のYは字義的に聞いていることに対して答えていない、関係の公理に違反しているものと考えられます。
わたしも問3は1を選びました。3はゲームの話で受けてはないですが、関係的につながってる気がします
ゲームしていい?→塾に行きなさい。と普通に取れるんですが、関係性に違反していますか?
>匿名さん
はい、ゲームの話題に言及せず、塾の話題に言及しています。
「今から塾があるでしょう」には、字義的にゲームについて言及していません。これが”ゲームをするな”という意味に感じるのは、裏の意味を受け取っているからです。裏の意味が感じられるということは、何らかの公理に違反しているはずです。考えられるのは関係の公理違反です。
問2について、3番目の選択肢は多義性があるように思います。
大きな犬の 鳴き声
大きな 犬の鳴き声
でも、補語と述語の関係による複数の意味で解釈が可能な発話ですので、答えは1ですね。
私、まんまと引っかかってしまいました…
>mitsuさん
ああホントですね! まったく気づきませんでした。
解説を更新いたします!