令和7年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説
問1 自然習得環境
社会の自然なコミュニケーションの中で第二言語を学ぶような習得環境を自然習得環境、学校に通ったりして第二言語を学ぶような習得環境を教室習得環境と言います。この二つは第二言語習得の面で学習者に異なる影響を与えます。
例えば自然習得環境では、仮に間違った発話をしたとしても意味が伝われば良しとされることが多く、相手から訂正を受けたりすることが少ないです。一方教室習得環境では先生がいるのでがっつり訂正を受けます。などなど。こうした違いについては「自然習得と教室習得について」に詳しく書いていますので、あわせてご覧ください。
選択肢1
言語形式の正確さが重視されるのは教室習得環境です。先生は学生が間違った発話をしたらすぐ訂正しますから。意味の伝達が優先されるのは自然習得環境です。間違った発話をしても意味が伝わればコミュニケーション上の大きな問題は生じませんので。
「自然習得環境は意味の伝達が優先されることが多い」とするこの記述は正しいです。これが答え。
選択肢2
自然習得環境では、話し相手はフォリナートークを使う可能性があります。教室習得環境では、話し相手である教師はティーチャートークを使う可能性があります。どちらも調整された表現で話しかけられる可能性がありますので、どっちが多いかというのはちょっと微妙ですが… どちらかというとティーチャートークは常に使うものだから、調整された表現は教室習得環境のほうが多いと思われます。
この選択肢は間違い。
選択肢3
発話に含まれる誤りをよく訂正するのは教室習得環境です。だって先生がいるから。
この選択肢は間違い。
選択肢4
教室習得環境だと目標言語に触れる時間はその授業時間だけ。でも自然習得環境だと外にいる時間はほぼ常に目標言語に触れる時間です。「自然習得環境は、目標言語に触れる時間は限定される」とするこの記述は間違い。
答えは1です。
問2 第二言語環境
日本国内ではなく、海外の学校で日本語を外国語科目として学ぶ習得環境は外国語環境と言います。一方、日本国内で生活するために日本語を学ぶような習得環境は第二言語環境と言います。やっぱりこの二つもいろいろ違いがあって、例えば外国語環境だと授業中だけ目標言語を使い、授業が終わったら母語が使われる環境に移るので、なかなかインプットを得られません。でも第二言語環境の場合は授業が終わっても日本語が使われる環境が続きますから、インプットがたくさん得られる可能性があります。こうした違いは「JFL、JSL、JHLとは?(学習環境の違い)」に詳しくまとめています。
選択肢1
学習言語での会話相手の範囲が限定的なのは外国語環境。授業中だけがそうで、教室の外に出たら学習言語を使わなくなってしまいます。この選択肢は間違い。
選択肢2
第二言語環境では教室の外でも学習言語が使われていて、例えばスーパーで、コンビニで買い物するときでも日本語を使います。そうした特定の場面で使う日本語は使えるようにならなければ買い物がスムーズにできなかったりするので、学習の動機づけが高まることで習得が早く進む傾向があります。しかし外国語環境では授業の中で一つずつ新しいことを学んでいきますから、習得が早まるような項目は特段ないと思われます。この選択肢は適当。
選択肢3
日本国外で日本語を学ぶ外国語環境、例えばアメリカで日本語を学ぶ場合、日本語の授業ではアメリカ人教師が日本語教師をつとめることが多くなります。教師と学習者の母語が一致しますから、日本語の授業であっても媒介語である英語を用いて授業することができます。しかし日本で日本語を学ぶ第二言語環境では、日本人が日本語教師をつとめることが普通ですから、授業は普通日本語で媒介語はあまり使われません。
「第二言語環境は媒介語を用いる頻度が高い」とするこの記述は間違いです。
選択肢4
ここでいう真正性の高いインプットとは、実際のコミュニケーション場面で使われている”生の日本語”という理解で大丈夫です。日本国外で日本語の授業を行う外国語環境では、その国出身の先生が日本語教師をつとめることが多いので生の日本語に触れる機会はほとんどありません。しかし日本国内で学ぶ第二言語環境では日本人が授業をしますし、授業の外に出ると普通の日本人がたくさんいますから、生の日本語に触れる機会が多いです。「第二言語環境では真正性の高いインプットが少ない」とするこの記述は間違いです。
答えは2です。
問3 母語と目標言語の距離
母語と目標言語の距離も第二言語習得に影響を与えるという話ですね。
例えば、韓国語は日本語と似ているという話を聞いた日本語母語話者は、韓国語を学ぶときに日本語と似ていると思って細かいところには特段警戒せずに学び進めるかもしれません。しかし、英語と日本語は全然違うという話を聞いた日本語母語話者は、英語を学ぶときに違いを捉えようとかなり警戒して細かいところの違いを学ぼうとするかもしれません。実際の言語の違いももちろん関係ありますし、違いに対する学習者の意識も習得に関係してきます。
選択肢1
母語と目標言語の距離が近い場合、母語の文法規則が目標言語の文法規則と同じかあるいは似ていると感じられるので、母語の知識を使って目標言語を学ぼうとするかもしれません。だから母語の知識の影響は受けると思います。この選択肢は間違い。
選択肢2
これも選択肢1と同じで、母語と目標言語が似ている場合は談話展開も似ていると考えられるので、母語の談話展開を目標言語に転移させるということがありえます。この選択肢は間違い。
選択肢3
母語と目標言語が近い場合、目標言語をそのまま直訳して母語の表現にしても正しい表現である可能性が高いです。だから正の転移(母語が目標言語に与えるプラスの影響)は多くなります。この選択肢は間違い。
選択肢4
これが答え。母語と目標言語が近い場合、いろんな部分が共通しているだろうと思って細かい違いには警戒しなくなる可能性があります。だから細かなルールの違いに注意が向きにくくなり、その違いによって生まれた誤用が直りにくくなります。この選択肢が答え。
答えは4です。
問4 ティーチャー・トーク
言語教師が教室で学習者に向かってする話し方をティーチャー・トークと言います。ティーチャー・トークは結構加工された話し方なので… 良いところもあれば悪いところもあります。
選択肢1
ティーチャー・トークは学習者のために加工された日本語だから、“自然な”言語表現というのはほとんど含まれません。例えば 「泳ぐことができる」などの「~ことができる」を学ぶ授業では、先生は意地でも「泳げる」みたいな可能形を使わなくなります。「100m泳げます」とか言ってもいいのに、意地でも「100m泳ぐことができます」を使ったり、使わせたりするわけです。これは全然自然じゃない。この選択肢は間違い。
選択肢2
その通りです。先生が「泳ぐ」とキューを出して、学習者が「泳ぐことができます」と言ったりする単純な繰り返しの練習では、先生は「泳ぐことができます」という答えを知っている状態で質問が投げかけられます。質問者が答えを知りながら尋ねる質問形式を提示質問、答えを知らない状態で尋ねる質問形式を指示質問と言いますが、ティーチャー・トークの多くは答えを知りながら訪ねる提示質問が多い傾向があります。この選択肢が答え。
選択肢3
「最近運動していますか?」みたいな縮約しない言い方と、「最近運動してますか?」みたいに「い」を抜く言い方、ティーチャー・トークは前者の縮約しない言い方がよく現れます。他にも、話し言葉でよく現れる「食べちゃいました」よりも「食べてしまいました」のほうがよく使われます。ティーチャートークは話し言葉を多用するというこの選択肢の記述は間違い。しかも自然な速さではなく、ちょっとゆっくりめの速さで発話されるから、後ろの文の内容も間違い。
選択肢4
相手の言ったことがよく分からないときにその意味が何であるか聞いたり(明確化要求)、相手の発話を自分がちゃんと理解しているかどうか相手に確認したり(確認チェック)、自分の発話を相手がちゃんと理解しているかどうか相手に確認したり(理解チェック)するようなことをまとめて意味交渉と言います。ティーチャートークは選択肢2でも述べたように質問者が答えを知りながら尋ねる提示質問が多いので、あまり意味交渉は起きません。教師は想定された答えを得るだけで、そこにインフォメーション・ギャップ(情報差)はあまりないんです。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問5 リキャスト
リキャストとは、学習者の誤用部分だけを訂正して、会話的に不自然な流れにならないようにこっそり暗示的に行われる訂正フィードバックのことです。ポイントは、正用を提示しながら、暗示的にフィードバックするという点。
(1) 学習者:富士山はきれかったです。
教 師:そうですか。きれいでしたか。
例えば上の発話では、学習者は「きれかったです」と誤用を産出しました。これに対して教師は正用「きれいでした」を提示しつつも、誤用があったことをはっきり示さずに暗示的にフィードバックをしています。これによって会話の流れは自然を保ったままですね。このように正用を提示しながら、暗示的にフィードバックするのがリキャストです。
訂正フィードバックのまとめは以下。
| 暗示的 | 理解確認 | 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 | 正用を提示インプット誘発型 |
| リキャスト | 間違っているところだけを正しく言い直して学習者に提示する。 | ||
| 明確化要求 | 言っていることが理解できなかったことを伝え、言い直させる。 | 正用は提示せず自己訂正を促すアウトプット促進型(プロンプト) | |
| 繰り返し | 間違っている発話全体や間違っている部分をそのまま繰り返す。 | ||
| 明示的 | メタ言語的フィードバック | 文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。 | |
| 誘導 | 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。 | ||
| 明示的訂正 | 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 | 正用を提示インプット誘発型 |
学習者:昨日は寒いでした。
教 師: ア
選択肢1
「寒いでした?」というのは、相手の誤用をそのまま繰り返しているだけ。これは 繰り返し 。
選択肢2
「寒かったです」という正用を提示しながら、会話の流れを保つ暗示的にフィードバックをしています。これが リキャスト 。
選択肢3
「寒かったです」と正用を提示していますが、誤用であることを明示的に示しているフィードバックです。これは 明示的訂正 。
選択肢4
正用も提示せず、明示的に訂正フィードバックを行っています。これは メタ言語的フィードバック 。
答えは2です。

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