令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題9解説
問1 ステレオタイプ
ステレオタイプ(stereotype)とは、「ある特定の集団に対して人々がもっている信念を、その集団に所属しているすべての個人に共通の特徴であると考える傾向」(藤本・東 2004: 7)のことです。例えば「眼鏡をかけてる人は勉強できる」や血液型占いなどがこれにあたります。ここに否定的な評価や感情が加わることで「◯◯人は✕✕だ」のような偏見が生じ、さらに具体的な行動となると差別となります。
1 「生まれながら」が間違い。
2 これがステレオタイプ
3 ???
4 ステレオタイプは本質ではないレッテルです。これは間違い。
答えは2です。
《参考文献》
藤本忠明・東正訓(2004)『ワークショップ人間関係の心理学』7頁.ナカニシヤ出版
問2 カテゴリー化
カテゴリー化(←リンク先は認知言語学の用語)とは、目にした対象のパターンを最も類似した過去の記憶に基づいて、その対象の持っている属性や性質を推測することで生じる分類のことです。人は認知能力に限りがあるため、カテゴリー化により最小の認知的努力で最大の情報を得ようとします。
選択肢1
ゆとり世代、Z世代とか年齢でカテゴリー化したり、草食男子、山ガールとか性別でカテゴリー化したりと、年齢や性別、人種はカテゴリー化の基準となりやすいです。これは適当。
選択肢2
その通りです。たとえば私はゆとり世代なんですけど、ゆとり世代はみんな〇〇だ、みたいにまとめて扱われることが多かったです。しかしゆとり世代と呼ばれる人々の中にも多様な人がいて、実際は〇〇に該当しない人だっています。カテゴリー化は同じカテゴリーに属する人を均質的に捉え、実際以上に似ていると思う原因になってます。これは適当。
選択肢3
これもその通りです。私たちははじめて見るものでも、過去の経験からそれがどういうものなのか把握しようと認知活動をします。例えば人だったら、顔にこういう特徴がある人は厳しいとか、こういう人はこういう特徴があるとか、そういう認知活動は過去の経験から作られたカテゴリーに照らしてなされます。はじめて見る椅子でも、見たことがある椅子に関する知識を使って座るところが分かったり、扱い方が分かったりします。この記述は正しいです。
選択肢4
カテゴリー化のしかたは文化によって違います。例えばアメリカなどでは肌の色によってカテゴリー化がなされ、いろいろ争いの種になったりしますが、日本では肌の色はアメリカほど気にされません。カテゴリー化のしかたが文化によって普遍的であるとするこの記述は間違いです。
答えは4です。
問3 接触仮説
接触仮説とは、文章中にあるようにオルポート(1954)が提唱した偏見に関する仮説で、偏見を持つ人がその偏見の対象である集団との接触することで偏見が減少していき、場合によっては好転するとする仮説のことです。文章中に書かれている「接触が偏見低減に効果的に作用するための四つの条件」はオルポート(1954)が述べていることで、実際はその記述が著書の散在しているので具体的なページ数を示すのが難しくなっています。ここでは簡単にその4つをまとめます。
(a)異なる集団が平等な立場で関わること。
(b)異なる集団が共通の課題や目標に取り組むこと。
(c)異なる集団が競り合うことなく協力して目標を達成しようとすること。
(d)当局や社会が集団間の接触を支持すること。
集団間の接触が上記の4つの条件を満たしているとき、オルポートは偏見が軽減されてプラスに働くと述べました。さて選択肢を見てみましょう。
選択肢1
(a)~(c)ではざっくり言って「集団間の距離が近いといいよ」ということなので、「心的距離が保たれていること」というこの選択肢は(a)~(c)に反しています。この選択肢は間違い。
選択肢2
これは(d)の内容に合致します。これが答え。
選択肢3
この内容は(b)に反します。異なる集団が同じ目標に取り組むという一条件が偏見の低減に寄与すると考えます。この選択肢は間違い。
選択肢4
(a)に反します。年齢、立場などの上下関係を超えて平等な立場でかかわりを持てれば偏見の低減に寄与すると考えます。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問4 差別
問1にも書きましたが、ある特徴がある集団に所属している人全員に共通しているとする考えをステレオタイプといい、これに否定的な評価が加わると偏見となります。偏見に具体的な行動が加われば差別です。
選択肢1
この場合は試合で負けているので「(試合の結果として)劣っている」と判断するのは差別ではありません。
選択肢2
〇〇国の人々に対して否定的なステレオタイプがあるようです。これは具体的な行動は伴っていないので偏見です。
選択肢3
特定の学習者に対して「この人は~」と捉えています。集団に対する認識ではなく個人に対する認識だからステレオタイプですらありません。
選択肢4
否定的なステレオタイプがあり、さらにそれに起因して「雇用を拒む」という具体的な行動をしています。これが差別です。
答えは4です。
問5 多様性の理解
1 押し付けるように「身につけてもらう」というのが間違い。価値観の違いを感じてもらうことが多様性の理解。
2 留学生を受け入れるだけでは学生たちの多様性の理解にはつながらないです。話し合う場面を設けるとかしないと。
3 直接対話することによって理解が深められるかもしれません。これが答え。
4 差別を受けやすい人々は往々にして少数派なので、彼らに教育をしても社会全体の多様性の理解は望めません。むしろ差別する側の多数派に対して教育を行うべきです。
答えは3です。
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