令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題8解説

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令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題8解説

問1 演繹的アプローチと帰納的アプローチ

 文法指導の演繹的アプローチと帰納的アプローチの違いについて問う問題です。演繹法と帰納法の違いについて簡略化した授業例で見ていきましょう。

 【演繹的アプローチ】
 五段動詞のテ形は、動詞が「う」で終わるなら「って」、「く」で終わるなら「いて」になります
 じゃあ「買う」のテ形は何ですか?
 「書く」のテ形は何ですか?

 演繹的アプローチは、教師が先に文法規則を教えて、学習者は教えられた文法規則にしたがって個別の言語形式を見ていき練習をします。ポイントは教師が先に明示的に教えるということです。

 【帰納的アプローチ】
 「買う」のテ形は「買って」です。
 「舞う」のテ形は「舞って」です。
 「追う」のテ形は「追って」です。
 では「会う」のテ形は何でしょう?

 帰納的アプローチでは、教師は文法規則を明示的に教えるようなことはせず、個別の言語形式を提示して学習者に文法規則を発見させるやり方をとります。上記の例だと「う」で終わるのは「って」になるんだ、というテ形への変形の文法規則を教師が説明せず、学習者自身に発見させようとします。

 では、演繹的アプローチの機能的アプローチとは違う短所を探しましょう。

選択肢1

 演繹的アプローチでは教師がまず文法規則を教えるので、確かに学習者には規則を学習することが言語学習なんだと誤解させてしまう可能性があります。この選択肢は正しいです。

選択肢2

 演繹的アプローチでは教師が明示的に文法規則を教えるので、その文法規則に忠実にしたがえば誤用を産出することはありません。しかし帰納的アプローチでは文法規則を直接教えず、発見させるという過程をとります。よって学習者は学習者内部に間違った文法規則を取り込むことがあり、それによって間違った言語形式を産出する可能性もあります。この選択肢は演繹的アプローチの短所ではなく、帰納的アプローチの短所です。間違い。

選択肢3

 一般の教科書には普通文法規則がちゃんと書かれていますから、文法規則を明示する演繹的アプローチの授業では教科書が使いやすいです。帰納的アプローチは文法規則を教えないので、それが書かれている教科書は使えません。
 この選択肢はこの選択肢は演繹的アプローチの短所ではなく、帰納的アプローチの短所です。間違い。

選択肢4

 例えばテ形のような活用は、特に五段動詞は「う」なら「って」、「す」なら「して」などと結構複雑です。このような複雑な文法項目を演繹的アプローチで教えるのと帰納的アプローチで教えるのでは、どちらが時間がかかるでしょう。
 答えは帰納的アプローチです。帰納的アプローチでは一つずつ規則を発見させようとするので大変時間がかかります。一方演繹的アプローチでは一つずつ明示的に説明すれば済みます。この選択肢は帰納的アプローチの短所についての記述だから間違い。

 答えは1です。

問2 確認テスト

 「~前に」に接続できる動詞は辞書形「寝る」に限られます。
 「~あとで」に接続できる動詞はタ形「食べた」に限られます。
 経験を表す「~ことがありません」にはタ形「忘れた」だけ接続できます。
 意志を表す「~つもり」には辞書形「教える」だけ接続できます。

 この確認テストは、後続する要素に対してどのような動詞の形であれば接続できるのかを知っているかどうか問うテストのようです。
 答えは2です。

問3 コーパス

 コーパスとは、母語話者が使ったいろんな表現をデータベース化したもののことです。その言語の文レベルの用例辞書みたいなものだと思えばいいです。昔のものから現代のものまでいろんな用例がデータベース化されていますから、その時どんな表現が使われていて、今はどうなって… みたいな研究に使えます。

選択肢1

 書き言葉だけをデータベース化したコーパス(BCCWJ)もありますし、話し言葉だけのコーパス(CSJ)もあります。書き言葉の特徴を知りたければ前者を使い、話し言葉だったら後者を使えばよくて、それぞれがそれぞれの特徴を反映しています。この選択肢は適当です。

選択肢2

 文法項目の教育的な重要度というのがいまいち掴み切れないんですが、例えば文型シラバスにおいて最もはじめに勉強する「AはBです」という文型は、順序でいうと最も重要と言えそうです。しかしこの文型が、日本語母語話者が最も使う(使用頻度が最も高い)文型かというとそうではありません。日本語母語話者が使う最も使用頻度の高い文法項目が、日本語教育においても最も重要な文法項目であるとするこの選択肢は疑問です。

選択肢3

 例えばコーパスで「可及的」と調べると、データベース上の「可及的」が含まれる文が全て出てきます。するとその後ろに「速やか」という語が多くの場合ありますね。そういうように共起する語と語の組み合わせをちゃんと量的に確認することができます。この選択肢は適当です。

選択肢4

 「きれい」で検索して用例を集め、「美しい」で検索して用例を集め…
 その2つの用例を比較すると、こんなときは「きれい」を使う、こんなときは「美しい」を使うんだと類義表現の用法の違いを明らかにするときにコーパスは使えます。この選択肢は適当です。

 答えは2です。

問4 ディクトグロス

 ディクトグロスとは、学習者に長めの文章を読み上げて、学習者はそのキーワードをメモし、ペアやグループになってメモをもとに元々読み上げられた文章を再現する活動のことです。四技能使う活動なのですごい。

 1 いいと思います。興味が引ける内容だったらよく聞いてくれるから。
 2 読み上げる文章は加工されたものではなく、生教材のほうがいい。これは間違い。
 3 知らない文法項目がたくさんあると文章を再現できなくなります。多くではなく多少ならおk。これは間違い。
 4 遅めに話したりすると文章再現が簡単になってしまいます。ギリギリできる程度に調整すべき。

 答えは1です。

問5 ARCSモデル

 ARCSモデル(アークスモデル)は「平成29年度 試験Ⅲ 問題6」にも出題されました。ARCSモデルとは、教師が学習者の学習意欲を高めるために行うべき行動を注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)の4つの側面から示したモデルです。この4要素を授業の計画に活用することで学習者の興味を引き出したり、やる気を引き出せるような教案を作ることができるようになります。

 選択肢4には「注意」「関連性」「自信」「満足感」とそのまま4つの側面が書かれています。
 答えは4です。




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