令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題6解説

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令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題6解説

問1 コミュニケーション・ストラテジー

 コミュニケーション・ストラテジーとは、学習者が目標言語の母語話者とコミュニケーション中になんらかの言語面の問題に直面したときに、その問題を切り抜けようとして用いる対処法のことです。例えば、自分がどういえば分からないときに何もしないで困っているままだと意志疎通の面で問題が出てきます。そういうときは伝えたいことを別のことばで言ったり、言語そのものを切り替えて伝えたり、体を使って表したりなどのストラテジーがあります。提唱者であるTarone(1981)はコミュニケーション・ストラテジーを継ぎの5つに分類しています。

言い換え 似てる表現を使ったり、新しい表現を作ったり、伝えたいことを説明したりする。
借用 母語の言い方を翻訳したり、母語を使ったりする。
援助要請 相手に正しい表現を聞く。
身振り 身振り手振りを使う。
回避 意味が分からないことを話さないようにしたり、途中でやめる。

 1 コミュニケーション上の問題が生じてない
 2 コミュニケーション上の問題が生じてない
 3 コミュニケーション上の問題に対して上述の「言い換え」を行っている
 4 コミュニケーション上の問題が生じてない

 答えは3です。

問2 パフォーマンス評価

 パフォーマンス評価とは、「現実場面に近い状況で課題解決等のパフォーマンス(作業や動作)をみて、実際の生活でどの程度知識や技能を用いることができるかを評価するもの」(平沢 2014: 173)です。何を知っているかという量的な評価ではなく、何ができるかという質的な評価を行うために用いられます。

選択肢1

 「『書く』のナイ形は何か」のように単純な知識を問う問題だったら正答「書かない」以外に答えはないので、評価の基準は「書かない」と答えられるかどうか、答えられれば+1、答えられなければ0と決まってます。こういう問題は正答が自明なので、あらかじめ評価基準を示したりする必要はありません。しかし<資料1>の、例えば「日本の空港の案内所で電車の乗り方について質問できる」という授業では、具体的にどんなパフォーマンスをすればどのくらい評価されるのかが分かりにくいです。なので、つたなくても質問できれば+1、流暢に質問できれば+2、相手の内容を聞いて理解を確認できれば+3みたいに、あらかじめ評価基準を明確にしていく必要があります。この選択肢は正しいです。

選択肢2

 「できる」「できない」の二択で評価できるのは単純な知識を問う問題に使われます。パフォーマンスの評価は二択ではなく、数段階的に分かれた評価をします。この選択肢は間違い。

選択肢3

 パフォーマンス評価は採点基準が決まっていてもどうしても採点者の主観が入り込みやすいので、一人で採点すると信頼性が保てません。この人はどのくらいできているかの判断は人によって違うからです。こういときは評価基準をしっかり作ったうえで、複数の教師で採点すれば信頼性(評定者間信頼性)を高められますし、あるいは一人で複数回採点することでも信頼性(評定者内信頼性)を高めることができます。「複数の教師で採点することは避け」という点が間違い。

選択肢4

 明確な正答が用意されていて、それにしたがって採点すれば採点者の主観が入り込まないタイプの客観テストだけでテストを作れば、その人がどのくらい知識があるか分かり量的な評価ができ、信頼性も高められます。しかし逆にその人が何かできるかというパフォーマンスの面の質的な評価は難しくなってしまいます。作文とか、<資料1>のような明確な正答が用意されていなくて、採点の際に採点者の主観が入り込むタイプの主観テストだけだと、質的な評価は十分にできて現実な場面の課題解決能力をしっかり見ることができますが、今度は主観テストがないので量的な評価ができなくなり、また採点が安定しないで信頼性が低くなってしまいます。
 私たちが受ける日本語教育能力検定試験は、試験Ⅲの最後に記述問題がありますが、あれは主観テストです。客観テストに加えて一部主観テストが設けられています。こうすることで量的な評価もできますし、質的な評価もできるようになります。主観テストは採点基準をしっかり定めて複数人で採点するなどすれば信頼性を保てますから、このようにしてよりよいテストを作ってるわけですね。
 なのでこの選択肢は間違いです。

 答えは1です。

 《参考文献》
 平沢茂(2014)『改訂版 教育の方法と技術』173-174頁.図書文化社

問3 ロールプレイ

 ある設定された状況の中で与えられた役割を演じる活動をロールプレイと言います。テストでロールプレイを行うときの留意点とは…

選択肢1

 <資料1>のコース目標のところには「CEFR A2レベル」と書かれています。これは大体N4~N3くらいのレベルに相当します。このレベルの学習者に対して日本人と話すときと同じようなスピードで話すのはかわいそう。ロールプレイだから自然さは重要ですけど、学習者のレベルにあわせた自然さで進めたほうがいいと思います。この選択肢は間違い。

選択肢2

 ロールプレイは現実的な場面を教室で再現しようとしますから、ロールプレイ中に設定された状況では起こり得ない「メモをとる」という行為は避けるべきです。この選択肢が答え。

選択肢3

 ロールプレイでは、参加者はどうふるまい、何を言うかという選択権が保証されている必要があります。教師としてある程度想定はあるでしょうが、学習者のふるまいにしたがって会話を進めていくのがいいです。この選択肢は間違い。

選択肢4

 ロールプレイ中はその状況に入り込んで演じますから、その中で誤用があっても指摘することはないです。しかも一応テストとしてロールプレイだから、テスト中に指摘するのはもっとおかしいですね。せめてロールプレイが終わった後にフィードバックすべきです。この選択肢は間違い。

 答えは2です。

問4 ロールカードの問題点

選択肢1

 ロールプレイにはそのロール(役割)の人が何をすればいいかが書かれています。相手の反応や返答について書く必要はありません。これは間違い。

選択肢2

 真正性とは、テストの内容が現実の場面で起こると思われる言語活動を含んでいるかどうかの度合いのことです。<資料2>のロールカードの内容は東京に旅行に来て、そこで買い物中に良いセーターを見つけて、という旅行でかなりの確率で起きうる場面を想定していますから真正性は保たれています。この選択肢は間違い。

選択肢3

 このコースの目標は旅行先の店などで簡単なやり取りをしたり情報を得たりできるようになることです。<資料1>の授業の内容を見ると、全てが「~について質問できる」という形式です。しかしロールプレイでは「お店の人に相談してください」という形式になっていて、授業で扱ってない内容が出題されています。授業と同じくロールプレイでも「~について質問してください」みたいな形式にしたほうがいいです。この選択肢が答え。

選択肢4

 良いサイズの服がないから店員さんに聞くというのは、コース目標である<簡単なやり取りをしたり情報を得たりできるようになること>に合致します。この選択肢は間違い。

 答えは3です。

問5 総合的(全体的)ルーブリック

 ルーブリック関係の本をいろいろ探したんですけど、総合的(全体的)ルーブリックと分析的ルーブリックという用語が載ってるのは見つけられませんでした… 残念。でも、ルーブリックを使ったホリスティックな採点と分析的な採点に関する内容がダイアン・ハート(2012)に書かれていたので、なんとかこの問題を解く手掛かりにはなりそうです。

 それによると、ホリスティックな採点(全体的な採点)とは、「生徒の作品事例を全体的に見て、包括的な印象に基づいて行われる評価」(ダイアン・ハート 2012: 96)だそうです。通常は4~6段階で点数評価されて、教師はそのいくつかの段階から一つ選んで評価するだけなので比較的迅速に評価できます。これとは対照的に、分析的な評価は「生徒の作品の多用な特徴や次元(dimensions)を別々に採点していこうというもの」(ダイアン・ハート 2012: 96)です。全体的に見て評価するのではなく、それぞれの部分についてそれぞれ評価していくので時間がかかりますが、全体的な評価に比べて細かい情報が得られます。

選択肢1

 評価項目がたくさんあるのは分析的な評価が行えるルーブリックです。全体的な評価を行うルーブリックは全体的に見て1つの評価を与えるので評価項目は1つだけ。この選択肢は間違いです。

選択肢2

 学習者の持つ能力の強みと弱みの詳細を明らかにできるのは分析的な評価を行うルーブリックの利点です。全体的な評価を行うルーブリックは全体を見てざっと評価をするだけなので強みや弱みをより詳しくみることはできません。この選択肢は間違い。

選択肢3

 上述のように採点が容易なのは全体的な評価を行うルーブリックだからこの選択肢は間違い。

選択肢4

 これが分析的ルーブリックの利点です。評価する観点(評価項目)は詳細でそれぞれに対して評価をします。一つ一つ細かいところを評価していけばいいので、たしかに経験がなくてもその部分だけを見れば評価できそうです。一方全体的な評価を行うルーブリックは観点が”全体的に”という一つだけしかありませんから、全体を正確に捉えれれる経験のある教師じゃないと評価しにくいと思われます。これが答え。

 答えは4です。

 《参考文献》
 ダイアン・ハート(著)・田中耕治(訳)(2012)『パフォーマンス評価入門 「真正の評価」論からの提案』96-97頁.ミネルヴァ書房




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