令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3C解説
(11)文法的な意味を表す形式名詞
1 この「もの」は実質的な意味を持つ「物」を指しているので、形式名詞じゃなくて実質名詞
2 実質的な意味を持つ「物」を指しているので実質名詞
3 実質的な意味を持つ「物」を指しているので実質名詞
4 この「もの」は動詞タ形について思い出に浸る様子を表す形式名詞です。
選択肢4は話し手の主観を表すモダリティ形式でもあり、文法的な意味を表します。
答えは4です。
(12)「XはYものだ」と「XはYことだ」
「~ものだ」は物事の本質や一般常識を述べる用法(1)と、感情を表出する用法(2)があります。「~ことだ」はアドバイスの用法(3)と、感情を表出する用法(4)があります。
(1) 子どもは本来勉強なんかしたくないものだ。 <物事の本質>
(2) 私は本当に良い友人を持ったものだ。 <感情の表出>
(3) 病院では静かにすることだ。 <アドバイス>
(4) 自分の意見を持つのは結構なことだ。 <感情の表出>
このうち、(1)(3)のような義務や必要を述べる用法に関する問題です。(2)と(4)は無視。
選択肢1
(1)a 人は他人には優しくするものだ。
b✕田中さんは他人には優しくするものだ。
「ものだ」は<物事の本質>を述べるので主語は大きくなるはず。(1a)のように「人」を主語にして言えても、範囲が狭い「田中さん」の(1b)はダメ。この選択肢は正しいです。
選択肢2
(2)a 人は他人には優しくするものだ。 <Xが「人」>
b 仕事はつらいものだ。 <Xが「人」以外>
「XはYものだ」において、Xは(2a)のように「人」でもいいですし、(2b)のように人以外の「仕事」でもいけます。この選択肢は間違い。
選択肢3
(3) 君はここで静かにしていることだ。
「XはYことだ」のXに「君」は置けます(3)。この選択肢は間違い。
選択肢4
(4) 君はここで静かにしていることだ。
Xにあたる「君」は(4)のように明示してもいいし、コンテクストによって自明の場合は明示しなくてもいいです。明示しないのは自明だからであり、言語化できないからではありません。この選択肢は間違い。
答えは1です。
(13)「ところだ」
選択肢1
(1) これからご飯を食べるところだ。 <動作の直前>
<進行中>を表すには「食べているところだ」と「ているところだ」を使います。「~するところだ」は<動作の直前>です。この選択肢は間違い。
選択肢2
(2) あのままだったらあやうく死ぬところだった。 <反事実的な事態>
(2)の文の発話時点において話し手は「死ぬ」という動作が実現していませんが、「あのままだったら」という条件を満たせば「死ぬ」という動作が実現することを表します。このような条件文は反事実条件と呼ばれ、事実でない事態を表すことができます。この選択肢は適当です。
選択肢3
(3) 今ご飯を食べているところだ。 <進行中>
「~しているところだ」は動作の<進行中>を表します。動きの直前の場面を表すのは「食べるところだ」などの「~するところだ」です。この選択肢は間違い。
選択肢4
(4) 電話がかかってきたとき、ご飯を食べているところだった。
「~しているところだった」は過去のある時点における動作の<進行中>の局面を表します。例えば(4)では、発話時よりも過去のある時点(電話がかかってきたとき)において、「ご飯を食べる」という動作が<進行中>であったことを表します。動きの直後の場面を表すのは「ご飯を食べたばかりだ」などの「~したばかりだ」を使います。
答えは2です。
(14)「~したばかりだ」
問題文によると、「~したばかりだ」と「~したところだ」は(1)(2)のように動作完了直後の局面を表す意味を表しますが、「~したばかりだ」にだけ見られる特徴があるとか。違う点は…
(1) ご飯を食べたばかりだ。 <動作完了直後の局面>
(2) ご飯を食べたところだ。 <動作完了直後の局面>
選択肢1
(3)a ご飯を食べたばかりだ。
b ご飯を食べたばかりだった。
(4)a ご飯を食べたところだ。
b ご飯を食べたところだった。
「~したばかりだ」も「~したところだ」も「だ」を「だった」にすることができるのでこの選択肢は間違い。
選択肢2
(5) ご飯を食べたばかりだから、ご飯はもう要らないです。
(6) ご飯を食べたところだから、ご飯はもう要らないです。
「~したばかりだ」も「~したところだ」も「だ」の後ろに「から」をつけられるのでこの選択肢は間違い。
選択肢3
(7) ご飯を食べたばかりの彼
(8)✕ご飯を食べたところの彼
(7)「~したばかり」は「の」で名詞修飾できますが、(8)の「~したところ」は「の」で名詞修飾ができなさそうです。これが答え。
選択肢4
(9) ご飯を食べてきたばかりに、彼女の料理を食べられなかった。 <原因・理由節>
(10) ご飯を食べ終わったところに、電話がかかってきました。 <時間節>
「~したばかりだ」「~したところだ」の「だ」を「に」に変えた例文を作ってみましたが、(9)(10)の「ご飯を食べてきたばかりに」「ご飯を食べ終わったところに」は名詞的に使うことができないようです。名詞的に使えるってことは、その後ろに格助詞が置けるってことですが、例えば「が」を置いてみて「ご飯を食べてきたばかりにが」とは言えないし、「ご飯を食べ終わったところにが」とも言えないからです。この選択肢は間違い。というか意味不明。
答えは3です。
(15)「ために」と「ように」
選択肢1
(1) (私が)大学に合格するために、私は一生懸命勉強を頑張った。 <同一主語>
(2) (私が)大学に合格するために、母は協力してくれた。 <非同一主語>
「ために」の従属節の主語と主節の主語は(1)のように一致してもいいですが、(2)のように一致しなくてもいけます。この選択肢は間違い。
選択肢2
(3) 大学に合格するために、私は一生懸命勉強を頑張った。
「合格する」という肯定形に「ために」がついている(3)は非文ではないので、この選択肢は間違い。
選択肢3
(4) (あなたは)寝坊しないように、(あなたは)早めにおやすみなさい。 <同一主語>
(5) 皆さんが楽しめるように、私はたくさん準備してきました。 <非同一主語>
「ように」の従属節の主語と主節の主語は(4)のように一致してもいいですが、(5)のように一致しなくてもいけます。この選択肢は間違い。
選択肢4
(6) 雨が降るように祈った。 <従属節が非意志的「雨が降る」>
(7) 寝坊しないように早めに寝る。 <従属節が意志的「寝坊しない」>
「ように」の前が非意志的な動作「降る」が着ている(6)は非文ではないのでこの選択肢は間違いのように感じられますが、下線部Eには「目的を表す節」とある点を見逃してはいけません。(6)の「ように」は目的ではなく、祈りを表す「ように」です。だからこの例文は選択肢4の例文として不適当。目的を表す「ように」は話し手の意志的な目的を表すため、それに接続できるのは(7)のように意志動詞に限られます。だから選択肢4の内容は正しいです。
答えは4です。
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