令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説

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令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説

(6)補助動詞

 (1) 遠くを見る。  <本動詞の「見る」>
 (2) 食べてみる。  <補助動詞の「見る」>

 その動詞を単独で用いる場合は本動詞といい、動詞テ形の後ろについて文法的に働く動詞を補助動詞と言います。(1)の「見る」はまさに自分の目で、視覚的に認識するという実質的な意味を持っていますが、(2)の「見る」は視覚的に認識するという意味はなく、ここでは「試しに(食べる)」という抽象的な意味を持つようになっています。実質的な意味を持つ語が機能的な意味を持つ語に変わること文法化と言いますが、(2)の「見る」は文法化した「見る」といえます。

選択肢1

 この選択肢の内容はまさに文法化のことを言っていて、これが答えです。

選択肢2

 この選択肢は補助動詞の説明ではなく、自動詞の説明。自動詞は対象をとらないし、動作主自身の変化を述べるからです。例えば「割れる」は「~を割れる」みたいに言えないので対象はとりません。また「窓が割れた」のように動作主である「窓」の変化を述べます。

選択肢3

 「納豆を食べてみた」のように言うと、補助動詞「見る」は辞書形ではなくタ形をとれます。この選択肢は間違い。ちなみに「~てみる」はモダリティ形式じゃないし、それに類似した働きというのもよく分からん。なんの説明なのか不明です…

選択肢4

 この説明は補助動詞の説明ではなく、他動詞の説明だと思われます。他動詞は述語の主体(いわゆる主語)が述語の対象を表す補語(ヲ格名詞)に対して働きかけることを表すからです。例えば「私が窓を割る」だったら、主体「私」が対象「窓」に働きかけをしています。

 答えは1です。

(7)食べてみる

選択肢1

 (1) 100mを泳げた。   <可能動詞「泳げる」>
 (2)100mが泳げてみた。 <可能動詞「泳げる」+「てみる」>

 可能動詞「泳げる」に「てみる」をつけることはできないのでこの選択肢は間違い。

選択肢2

 (3) 電気を消してみた。 <意志動詞「消す」+「てみる」>
 (4)電気が消えてみた。 <無意志動詞「消える」+「てみる」>

 「~てみる」は「~を試みる」みたいな意志的な動作を表すので、接続する動詞も(3)のように意志動詞でなければいけません。(4)の「消える」みたいな無意志動詞には接続できない。この選択肢は正しいです。

選択肢3

 (5) 納豆を食べてみた。 <過去形>

 「~てみる」は過去形にできます。この選択肢は間違い。

選択肢4

 (6) 大きな声で叫んでみたら、遠くから反応があった。

 (6)のように従属節(条件節)の中で「~てみる」を使うことができます。この選択肢は間違い。

 答えは2です。

(8)話し言葉での縮約形

選択肢1

 (1)a 猫が通り過ぎていった。
    b 猫が通りすぎてった。  <縮約形>

 「ていく」は過去形「ていった」のときに話し言葉で「てった」になります。末尾の音ではなく、語中の「い」が抜けてます。この選択肢は間違い。

選択肢2

 (2)a 雨が降っている。
    b 雨が降ってる。  <縮約形>

 「ている」は話し言葉で「てる」になります。子音ではなく母音「い」が脱落します。この選択肢は間違い。

選択肢3

 (3)a 壺を壊してしまう。  <非過去形>
    b 壺を壊しちゃう。   <非過去形の縮約形>
 (4)a 壺を壊してしまった。 <過去形>
    b 壺を壊しちゃった。  <過去形の縮約形

 「~てしまう」は非過去形でも過去形でも縮約形があります。この選択肢が答えです。

選択肢4

 (5)a ここに置いておく。  <非過去形>
    b ここに置いとく。   <非過去形+縮約形>
 (6)a ここに置いておいた。 <過去形>
    b ここに置いといた。  <過去形+縮約形>

 非過去形「~ておく」は「~とく」という縮約形があります。過去形「~ておいた」は「~といた」という縮約形があります。この選択肢は間違い。

 答えは3です。

(9)「ている」の用法

 問題文の下線部Dには、「ている」は動きの持続、結果の維持・残存という意味があると書かれています。

 (1) ご飯を食べている。  <動きの持続>
 (2) ずっと座っている。  <結果の維持>
 (3) 財布が落ちている。  <結果の残存>

 瞬間的には終わらず、ある一定の時間的な幅で実現される動きを表す動詞(いわゆる継続動詞の類)にテイルをつけると、その動きが持続していることを表します。例えば(1)なら食べ物を口に運ぶという動作を何度も繰り返すことを表しますよね。これが<動きの持続>とか<進行中>とか呼ばれているテイルです。

 しかし、瞬間的に終わる「死ぬ」「座る」などの動詞(いわゆる瞬間動詞の類)にテイルをつけると動きの持続は表しません。(2)の「座る」は立っている状態から腰かけた状態になることを表し、その動作は一瞬で終わります。(2)は立っている状態から腰かけた状態になる動作を連続して繰り返しているわけではないので、このテイルは<動きの持続>を表していません。瞬間動詞の場合、意志的な瞬間動詞にテイル形がつくと、その動きの結果が主体の意志によって維持されていることを表します。これが(2)のような<結果の維持>です。逆に無意志的な瞬間動詞にテイル形がつくと、動作によって生じた結果がそのまま残っている<結果の残存>を表します。それが(3)。

選択肢1

 「歌う」は継続動詞なので、そのテイルは<動きの持続>

選択肢2

 「壊れる」は瞬間動詞で非意志的なので<結果の残存>

選択肢3

 「掛かる」は瞬間動詞で非意志的なので<結果の残存>

選択肢4

 「優れる」は金田一(1976)がいう第四種の動詞というやつで、瞬間動詞でも継続動詞でもありません。この種の動詞は常に「~ている」の形で用いるのが特徴です。<動きの持続><結果の維持><結果の残存>も表わさないテイル。これが答え。

 答えは4です。

 《参考文献》
 金田一春彦(1976)「国語動詞の一分類」『日本語動詞のアスペクト』5-26頁.麦書房

(10)自他のペア

 自動詞「開く(あく)」と他動詞「開ける」のお話。
 問題文に「てある」の用法について<結果の残存>と<効力の残存>というのが出てきているんですが、たぶんこれは、「無意志動詞+てある」のときは<結果の残存>「意志動詞+てある」のときは<効力の残存>なんだろうと思います。

 (1) 電気が消えてある。  <結果の残存>
 (2) 電気が消してある。  <効力の残存>

 (1)は消した人の存在はあんまり意識されていなくて、ただ「消えた」という動作の結果が残ってるよってことを表しています。でも(2)は誰かが「消す」という動作を行って、その効力が残っていることを表します。いろいろ名前つけるのはいいけど、その命名はどこからきたやつかちょっと追えてないし、もうちょっと問題文で説明尽くしてほしかった。

選択肢1

 (1) ドアが開いている。  <結果の残存>
 (2) ドアが開けてある。  <効力の残存>

 (1)はドアが「開く」という動作をして、その結果が残ってることを表すので<結果の残存>。(2)は誰かが「開ける」という動作をして、その結果が残ってるので<効力の残存>。この選択肢は間違いです。

選択肢2

 選択肢1で検討した通り、「開いている」は<結果の残存>で、「開けてある」は<効力の残存>です。この選択肢は間違い。

選択肢3

 選択肢1で検討した通り、(1)のような「開いている」は「誰かの行為によってドアが開いている」ということを表すのではないので、行為の結果を表しているわけではありません。こちらは行為者が含意されない結果を表します。一方(2)のような「開けてある」は「誰かの行為によってドアが開いている」ことを表すため、行為の結果を表します。この選択肢は逆です。

選択肢4

 選択肢3で述べたように、「開いている」は行為者が含意されない結果を、「開けてある」は行為の結果を表します。これが答え。

 答えは4です。




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