令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題10解説
問1 ボトムアップ
大きいものや抽象的なものから処理をはじめ、小さいものや具体的なものに向かっていくような処理をトップダウン処理と言います。逆に、小さいものかや具体的なものから処理をはじめて、大きいものや抽象的なものに向かっていくような処理をボトムアップ処理と言います。文章を読むときでいえば、一語一語ちゃんと意味を確認して文全体の理解に繋げる場合はボトムアップ処理ですが、文をざっと見てだいたいの意味を理解し、推測しながら読み進めていくようなのはトップダウン処理です。
1 関連する内容を理解してから読むと入門書をざっと読めるようになるのでボトムアップの読み方
2 細かいところ(指示語)から文の理解につなげてるのでボトムアップの読み方
3 見出しからざっと予測して読み進めるのでトップダウンの読み方
4 特定の理解できそうなところから読み進めているのでトップダウンの読み方
答えは2です。
問2 スキャニング
スキャニングとは、文章の中から必要な情報を探し出す読み方のことです。例えば名簿から特定の人の名前を見つけたりとか、索引から探したい語を探すとかです。
これとよく一緒に出題されるのが、名前が似てるスキミングです。こっちは特定の情報を探し出す読み方ではなくて、文章にざっと目を通してだいたいの内容を把握する読み方のことです。
1 パンフレットから条件に合ったプランだけを探し出すのでスキャニング
2 丁寧に読み込むのは精読
3 ざっと読んであらすじを把握するのはスキミング
4 これも一語一語ちゃんと呼んでるから精読かな。
答えは1です。
問3 内容スキーマ
Carrell(1983)はスキーマを形式スキーマと内容スキーマに分けています。形式スキーマはジャンルによって異なる文の構成や書き方に関する背景知識のことで、内容スキーマはテキストの内容面に関する背景知識のことです。詳しくは「形式スキーマと内容スキーマについて」をご覧ください。
1 段落の構成に関する知識だから形式スキーマ
2 表現技法だから修辞法(レトリック)の知識かな
3 トピックの内容の背景に関する知識は内容スキーマ
4 ???
答えは3です。
《参考文献》
Carrell, P and Eisterhold, Joan C. (1983) Schema theory and ESL reading pedagogy, TESOL QUARTERLY, 17(4),pp.553-573
問4 精緻化推論
精緻化推論は文章に明示されていない情報を補って理解を深めるための推論です。例えば「12月の青森は寒い」という文章を見て、外が雪で真っ白で、マフラーを首にまいた人が白い息を吐きながら外を歩いている様子を想像したりするのが精緻化推論の例です。このような精緻化推論は人によってその内容が違うし、仮に違っていたとしても文章理解に影響は及ぼしません。したがって精緻化推論は文章理解に必須ではない類の推論です。
これに対して橋渡し推論というのもあります。例えば「明日は久しぶりの帰国だ。早寝しなければ。」という文章から、明日の飛行機が朝早いから早寝するのだろうと推論するのがこの橋渡し推論です。「明日は久しぶりの帰国だ」と「早寝しなければ」の間にある論理関係を導き、文章の整合性を保つ推論です。こっちは文章理解に絶対必須で、誰でも同じ内容の推論をします。
橋渡し推論と精緻化推論の違いについてはこちらをご覧ください。
選択肢1
(1) 佐藤は転んで、彼の荷物があたりに散らばった。
(1)の文において「彼」が指すのは「佐藤」です。誰でもこのような推論をし、仮に「彼」が「佐藤」ではない男性を指しているとすれば、前の文と後ろの文の整合性が保てなくなります。このように語彙的な結びつきに関する推論は橋渡し推論です。
選択肢2
(2) 佐藤は転んだ。膝を怪我したみたいだ。
(2)の前の文「佐藤は転んだ」は主語が「佐藤」で文中に明示されていますが、後ろの文「膝を怪我したみたいだ」には主語がなく、省略されています。しかし我々はこの文章を読んだときに「佐藤は膝を怪我したみたいだ」と、省略されている主語「佐藤」を補って呼んでいます。このように推論しなければ前の文と後ろの文の整合性が保てないからです。この種の推論は橋渡し推論です。
選択肢3
(3) 部屋が寒くてたまらない。
この文章を読んだとき、頭の中の任意の部屋に人がいて寒そうにしているイメージが瞬時に浮かぶと思います。どんな部屋なのかは当然人によって違いますし、人がどのように寒そうにしているかも人によって異なります。例えば両手をこすって寒そうにしているのか、厚着して貧乏ゆすりしているのかなど。この種の推論は精緻化推論で、読みながら瞬時に行われます。これが答え。
選択肢4
(4) 明日は久しぶりの帰国だ。早寝しなければ。
(4)の先行文「明日は久しぶりの帰国だ」と後続文「早寝しなければ」が論理的につながるためには、「飛行機が朝早いから早く出発しなければならない」という推論が必要になります。この種の推論、内容の整合性を確立する推論はそれができなければ文章理解に影響を及ぼすので橋渡し推論です。
答えは3です。
問5 発話思考法
発話思考法とは、実験対象者に課題遂行中に考えていること(考えていたこと)を言語化して話させ、その内容から認知過程を分析する方法のことです。課題遂行中の最中に考えていることを言語化させるのは同時発話思考法といい、課題遂行中の映像を見せながらそのとき考えていたことを言語化させるのを遡及的発話思考法と言います。
選択肢1
課題遂行中の映像を見せて考えを話させているので遡及的発話思考法なんですが、「特定の録画場面を見せて」というところが不適当。発話思考法は一連の読解においてどのように考えていたのか言語化させて分析しますので、特定の部分だけで思ったことを話させるのは足りないです。これは間違い。
選択肢2
???
選択肢3
これは同時発話思考法です。課題遂行中(読解教材を読んでいる最中)に考えていることを言語化させます。これが答え。
選択肢4
再話のような活動。
答えは3です。
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