令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題1(11)解説

令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題1(11)解説

(11)「も」の用法

 この問題は一見すると取り立て助詞の累加の「も」に見えます。例えば「私も学生です」というとき、「私」以外の誰かが学生であって、そこに同じく学生である「私」を累加することを表します。なので<累加>と呼ばれてるんですね。

 (1) も学生です。
    →直前の要素「私」を取り立てて、「私」と同類のものを暗示している。

 通常取り立て助詞「も」は直前の要素を取り立てて、取り立てた要素と同類のものを暗示します。(1)であれば「も」は直前の要素「私」を取り立てていて、「私」と同類の存在、例えば「彼」「彼女」「先生」「妹」「弟」などの存在が背景に浮かびます。しかし、取り立て助詞は直前の要素を取り立てるとは限らないのです…

 (2) 体調が悪くて、も出てきた。
    →直前の要素「熱」を取り立てて、「熱」と同類のものを暗示している???

 例えば(2)は「も」の直前の要素「熱」を取り立てているように見えますが、体調が悪い場面で「熱」以外に出るものが思い浮かびません。(1)だったら「彼も学生です」「彼女も学生です」「先生も学生です」のように同類のものを羅列することができたのに、この文は「熱も出てきた」しかなくて、他に出るものがないから「    も出てきた」に入れられる文がたくさん用意できない。結論からいうと、(2)は直前の要素「熱」を取り立てているわけではなく、「熱が出てきた」という広い範囲を取り立てています。そう考えると「熱が出てきた」と同じレベルの「関節が痛くなってきた」「喉がいがいがしてきた」「鼻水がとまらなくなった」などの体調不良に関連する同類の事象が挙げられます。覚えておいてほしいのは、取り立て助詞は直前の要素を取り立てることがほとんどですが、そうでないときもあります。それが(2)です。(→詳しくは「取り立ての範囲」をご覧ください。)

 この知識があればこの問題は解けます。

選択肢1

 直前の要素「夜」だけを取り立てているとすれば、「夜」以外に更けるものが暗示されるはずです。しかし「    も更けてきた」に入れられる語は「夜」くらいしかない。ということは直前の要素「夜」を取り立てているのではなく「夜が更けてきた」を取り立てているんじゃないかと思われます。とすると、閉会にする理由として「夜が更けてきた」がまずあって、他にも「遅い時間になった」「帰る時間になった」などが挙げられそう。この「も」は直前の要素を取り立てているわけではありません。

選択肢2

 直前の要素「土曜日」だけを取り立てているとすれば、「土曜日」以外の日も空いていることが暗示されます。確かにこの言い方は「金曜日も空いています」「日曜日も空いています」のような含みが感じられますね。この「も」は直前の要素を取り立てています。

選択肢3

 直前の要素「卒業してから」を取り立てているとすれば、「卒業してから」以外の時でも先生に連絡を取っていることが暗示されるはずです。この言い方だと「在学中も連絡を取っています」という意味が感じられます。「卒業してから」と同類のものが挙げられるので、この「も」は直前の要素を取り立てています。

選択肢4

 直前の要素「子ども」を取り立てているとすれば、「子ども」以外にもよく読まれているということを暗示するはず。実際「大人にも読まれている」という意味が感じられるので、この「も」は直前の要素「子ども」を取り立てています。

選択肢4

 直前の要素「不安」を取り立てているなら、「不安」以外にも感じられるものが暗示されるはずです。「不安でもある」以外に「楽しみでもある」「心配でもある」などの同類のものが挙げられるので、この「も」は直前の要素「不安」を取り立てています。

 選択肢1だけ直前の要素を取り立てていない取り立て助詞の「も」で、その他は直前の要素を取り立てている「も」でした。
 答えは1です。




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