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モニターモデルとは? (習得-学習仮説、自然習得順序仮説、モニター仮説、インプット仮説、情意フィルター仮説)

目次

モニターモデル(Monitor Model)

 モニターモデル(Monitor Model)は1970年代から80年代初頭にかけて注目を集めた、第二言語習得(SAL)に関する包括的な理論で、クラッシェン(Krashen)によって提唱されました。モニター理論(Monitor Theory)とも言います。クラッシェンは一連の研究でモデルの修正を行う中で、自身の主張を最終的に習得-学習仮説自然習得順序仮説モニター仮説インプット仮説情意フィルター仮説の5つの仮説にまとめています。

 クラッシェンはこのモニターモデルを理論的根拠とした外国語教授法、ナチュラル・アプローチを開発しています。

 ※モニターモデルに対する批判は多くありますが、ここでは概略の紹介につとめて言及しません。

習得-学習仮説(The Acquisition-Learning Hypothesis)

 クラッシェンによると、第二言語習得には「習得(acquisition)」と「学習(Learning)」の異なる方法があります。「習得」は第一言語を身につける際に幼児が使用するような無意識的あるいは半意識的な言語習得のプロセスであり、他者との自然なコミュニケーションを介して習得した知識(acquired knowledge)が得られると考えます。一方、「学習」は第二言語の文法規則について教室で授業を受けて意識的に学ぶような言語習得のプロセスを指し、このプロセスで積み重ねられた文法知識は学習した知識(learned knowledge)と呼ばれます。いずれもモニターモデルにおける用語です。

 そしてクラッシェンは、学習した知識と習得した知識は全く別物なので交わることはなく、学習した知識が習得した知識に変わることはない、つまり、教室で文法規則を「学習」したとしても、実際に母語話者のように話せるようにはならないと考えました。この考え方はノン・インターフェイスの立場、非インターフェイスの立場(non-interface position)と呼ばれます(ノン・インターフェイス仮説とも)。

自然習得順序仮説(The Natural Order Hypothesis)

 クラッシェンはそれまでの文法形態素の習得順序に関する研究で複数の被験者が文法形態素を同じ順序で習得していることに注目し、学習者の母語が違ったとしても、大人でも子どもでも、自然習得でも教室習得でも、それらに一切かかわらず、目標言語を習得しようとする全ての学習者の習得には予測可能な順序(predictable order)があり、必ずその順序で習得されると考えました。これは自然習得順序仮説(The Natural Order Hypothesis)と呼ばれています。

モニター仮説(The Monitor Hypothesis)

 第二言語の使用は習得した知識に基づいて行われる一方、学習した知識は自分の言語産出(話す、書く)の形式の正しさをモニターする機能(チェックする機能)しか持たないと仮定する考え方モニター仮説(The Monitor Hypothesis)と言います。例えば作文のテストや口頭試験では、学習者は自分が産出する言語形式が正しいかどうか注意を払います。この場面で正しいかどうか判断する機能をモニターを呼び、正しいかどうかを判断するために用いる知識は学習した知識であると考えます。

 ただし、モニターは次の3つの条件が満たされていなければ働きません。

 1.学習者が当該文法規則について知っている
 2.学習者が言語形式の正しさに焦点を当てている
 3.モニターする十分な時間がある

 学習者がその文法規則に関して学習した知識を持っていなければ正しい言語形式が何であるかが分からないので、自分が産出した言語形式に対してモニターが働くことはありません。また、道端で突然外国人に話しかけられりして迅速な返答が求められるような場面では、仮に文法規則についての知識があったとしてもモニターする十分な時間が確保されないので、自分が産出した言語形式に焦点を当てることも難しくなり、結果としてモニターが働きにくくなります。

インプット仮説(The Input Hypothesis)

 インプット仮説(The Input Hypothesis)では、その時点のレベルよりも自然習得順序上の少し高いレベルの理解可能なインプット(Comprehensible Input)を理解することによって第二言語が習得されると考えます。既に習得していて十分に習熟した文法知識も理解可能なインプットとなりますが、そのような易しいインプットは学習者の中間言語の発達には至りません。中間言語のある段階(i)よりも一つ高い段階の文法構造を多分に含むような理解可能なインプット、つまりi+1のインプットに接触することが習得を促進します。一方、理解できないインプットは学習者にとって難しすぎるため、学習者の中間言語体系においては単なるノイズに過ぎず、これもまた中間言語の発達に結びつかないので習得にも繋がりません。

 クラッシェンはこの仮説をモニターモデルの中心的仮説としています。

情意フィルター仮説(The Affective Filter Hypothesis)

 インプット仮説にもとづき、学習者がi+1のインプットを受けていればそれだけで無条件に習得が起きるわけではなく、学習者の情意要因が影響を及ぼすと考えます。第二言語習得の動機が欠如していたり、自信がなかったり、不安を抱えていたりすると、そのような負の情意要因がフィルターを高めて言語習得の障壁となり、理解可能なインプットをうまく取り入れられなくなります。逆に強い動機づけと自信がある場合にはフィルターが低くなり、理解可能なインプットを言語習得装置までより多く届けられるようになります。このように、学習者の情意要因が第二言語習得を促進したり抑制したりすると仮定する考え方を情意フィルター仮説(The Affective Filter Hypothesis)と呼びます。

参考文献

 迫田久美子(2002)『日本語教育に生かす第二言語習得研究』42-45頁.アルク
 白畑知彦・若林茂則・村野井仁(2010)『詳説 第二言語習得研究 理論から研究法まで』23-33,121頁.研究社
 Diane Larsen Freeman(著)・Michael H.Long(著)・牧野髙𠮷(訳)・萬谷隆一(訳)・大場浩正(訳)『第2言語習得への招待』242-248頁.鷹書房弓プレス




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