帰納的指導と演繹的指導について

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帰納的指導と演繹的指導について

 言語教育において文法項目を指導する場合、その文法項目の扱い方は大きく帰納的(inductive)なものと演繹的(deductive)なものの2つに分けられます。帰納的文法指導提示された個別の文法項目の事例から一般規則を導き出させるアプローチをとり、演繹的文法指導文法項目に関する一般規則を与えて個別の事例に当てはめていくアプローチをとります。どちらの指導が効果的かは一概には言えず、学習者の向き不向きによります。したがって、個別指導の場合は学習者の向き不向きを把握した活動が求められます。また、複数の学習者を相手にする授業の場合は、帰納的な文法指導が向いている学習者もいれば演繹的な文法指導が向いている学習者もいることが想定されるので、両者をうまく組み合わせた活動を行うことが大切です。

帰納的指導

 帰納的指導(帰納的アプローチ)とは、提示された個別の文法項目の事例から一般規則を導き出させるアプローチをとる文法指導の一種です。教師は指導対象となる文法項目を含む複数の個別の事例を学習者に示し、学習者はその事例に適応されている文法規則を導き出します。演繹的指導は教師が明示的に文法規則を示すのに対し、帰納的指導ではそれをせず、学習者自身に規則を推測させます。

 例えば動詞テ形への活用に関する文法規則を帰納的に扱う場合、以下のような複数の動詞の辞書形とそのテ形の組み合わせを学習者に提示します。

 複数の個別の事例を提示された学習者にはこれらの事例に共通する一般規則を見い出させ、辞書形からテ形への活用規則を推測させます。上記の場合は、「く」で終わる動詞はテ形で「~いて」となり、「ぐ」で終わる動詞は「~いで」になることが分かります。同様に、「う」で終わる動詞は「~って」、「む」で終わる動詞は「~んで」になります。一つの事例を提示するだけではそこに共通する規則を見い出せないので、必ず複数の事例を提示しなければいけません。帰納的指導は「行く」等の「く」で終わるのに「~って」になるような例外的な活用をする例を扱いにくく、幅広く適用できるような原則的な文法項目を扱うのに向いています。

 帰納的指導は文法規則を明示的に説明しないので指導に要する時間が長くなりがちですが、文法規則の発見プロセスを学習者自身に経験させることができるため、演繹的指導に比べて定着しやすいと言われています。テ形のような比較的分かりやすい文法規則なら規則を見い出すことは十分可能ですが、より複雑な文法規則を扱うと文法規則の発見も難しくなるので、その場合は演繹的指導によって明示的に説明したほうがいい場合もあります。

演繹的指導

 演繹的指導(演繹的アプローチ)とは、文法項目に関する一般規則を与えて個別の事例に当てはめていくアプローチをとる文法指導の一種です。教師は指導対象となる文法項目にかかわる文法規則を明示的に説明し、その後に個別の事例に対してその文法規則を適用して表現を生成させるような指導を行います。

 テ形を演繹的に指導する場合は、まずは「く」で終わる動詞は「~いて」、「ぐ」で終わる動詞は「~いで」、「う」で終わる動詞は「~って」、「む」で終わる動詞は「~んで」になることを明示的に説明します。その後は「書く」「泳ぐ」「買う」「噛む」などの個別の事例を学習者に提示して、与えられた文法規則に照らしながら「書いて」「泳いで」「買って」「噛んで」とテ形へ活用させるような練習に繋げます。

 演繹的指導は明示的に説明を行うので指導に要する時間は帰納的指導に比べて短く済み、その後の応用練習などの時間を確保することができます。ただし、教師が一方的に文法規則を伝えて機械的に練習を繰り返すような授業形式になってしまいがちなので、学習者によっては単調に感じるかもしれません。

参考文献

 馬場哲生(2009)「文法指導のアプローチ」『大修館 英語授業ハンドブック 中学校編 DVD付』207-248.大修館書店




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