方言札
方言札とは、日本本土の話し言葉を習得させることを目的として、20世紀初頭から1960年代半ば頃まで沖縄県の奄美諸島の教育現場で琉球方言を使用した生徒に対して与えられていた罰則札のことです。方言札の扱い方については学校・地域ごとに異なりますが、札を持つ生徒には掃除当番などの罰則を与えたり、平手打ちなどの体罰を行うなどの恐怖感を与える方法が取られる例もある一方、そうでない方法もとられることもあります(井谷 2006: 20)。おおむね共通する点としては、琉球方言を使用した生徒に方言札を首から吊り下げさせる方法を取っていました。
井谷(2006: 69-77)によると、日露戦争前後の沖縄人には本土との一体化志向と国家主義的な考えが広まり、同化政策を受け入れる土壌が急速に醸成されたこと、そしてこの時期には日本本土に移住するようになった一部の沖縄人が言語の違いからコミュニケーションの面で困難を示し、移住先で沖縄人に対する差別問題へとつながったことなどの背景から、沖縄に帰郷した人を中心に日本本土の話し言葉を学習する熱が高まり、このような国家主義的な動機と民衆レベルでの動機などが複合的に絡み合って日本本土語の教育が過熱化し、方言札の誕生につながったと考察しています。
参考文献
井谷泰彦(2006)『沖縄の方言札 さまよえる沖縄の言葉をめぐる論考』ボーダーインク
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