文法訳読法とは?

文法訳読法(Grammar Translation Method)

 教師が構文や文法規則などを解説し、必要な語彙とともに学習者に暗記させた後、それらの知識をもって目標言語で書かれた実際の文章を一文ずつ学習者の母語に翻訳したり、またはその逆の練習を繰り返す外国語教授法文法訳読法(Grammar Translation Method)、もしくは文法翻訳法、文法対訳法と言います。この教授法は目標言語と母語間の双方向の翻訳を行えるようになることを目標とするため、主に書き言葉に対する読解力(翻訳力)を身につけるのに有効とされていますが、一方でその他の能力、例えば会話能力などは身につきません。教師は文法の解説や適切な訳を提示することが主な仕事です。

 16世紀頃、それまでヨーロッパで共通語として使われていたラテン語が衰退して口語として使われなくなり、代わりにフランス語、英語、イタリア語などの諸言語が使われるようになりました。以降、死語となったラテン語は教養のある言語とみなされ、17世紀から20世紀半ばまで、ヨーロッパを中心に教養を得る目的で古典語の学校教育が行われました。その際、古典語で書かれた文章を読めるようになるために採用された教授法が文法訳読法です。日本でも近代化にあたって、欧米の進んだ文化や思想を吸収するために外国語で書かれた文献を日本語に翻訳する必要があり、この教授法が採用されました。

 しかし、諸外国との交流が活発になり人々の往来が盛んになると、外国語を話す人々との対面コミュニケーションの需要が生まれました。文法を習得し、文献を読解することを目的とした文法訳読法では日常生活でのコミュニケーションはできるようにならず、結果として文法訳読法への批判が高まり、新しい外国語教育が求められるようになります。このような時代背景から、19世紀には翻訳力よりも会話能力に重点が置かれ、幼児の母語習得過程(第一言語習得過程)に外国語学習の活路を見出して会話能力を伸ばそうとする教授法全般であるナチュラル・メソッド(自然主義教授法:Natural Method)が生まれました。

 文法訳読法は現代ではよく批判されますが、文献から情報を得る能力をニーズとする学習者に対しては有効な教授法であり、現在でも一部の外国語教育では用いられています。

参考文献

 石田敏子(1988)『日本語教授法 改訂新版』18頁.大修館書店
 木村宗男・阪田雪子・窪田富男・川本喬(1989)『日本語教授法』47-48頁.おうふう
 国際交流基金日本語国際センター(1988)『教師用日本語教育ハンドブック⑦ 教授法入門』116-117頁.凡人社
 高見澤孟(2016)『増補改訂版 新・はじめての日本語教育2 日本語教授法入門』150頁.アスク
 田中望(1988)『日本語教育の方法―コース・デザインの実際』100-107頁.大修館書店




コメント

コメントする