語彙的複合動詞と統語的複合動詞について

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語彙的複合動詞と統語的複合動詞について

 「取り除く」「走り切る」のような前部要素も後部要素も動詞で構成されるV+V型の複合動詞に関して、影山(1993)はいくつかの観点から語彙的複合動詞と統語的複合動詞の2つに分類しました。複合動詞を統語的観点からこの2つに分類しようとする試みについては複雑なので、詳しくは参考文献をご覧ください。ここでは後部要素の生産性と意味的な観点のみに触れることにします。

後部要素の意味と生産性

 【A群】 撃ち抜く、引き抜く、くり抜く…
 【B群】 走り抜く、攻め抜く、耐え抜く…

 「~抜く」を例にとってみます。A群の「~抜く」は”穴をあける”という実質的な意味を持っています。したがって、複合動詞を作るときは、前部要素の動詞は穴をあけるきっかけとなるような動作「撃つ」「引く」「くる」などと一緒に用いなければいけません。
 しかしB群の「~抜く」は穴をあけるという意味はなく、”最後まで続ける”という抽象的な意味を持っています。この意味のときは、前部要素に置かれる動詞は比較的何でもよく、穴をあけるきっかけとなるような動作には限りません。上記の3つ以外にも「食べ抜く」「やり抜く」「考え抜く」など、いろんな語を作ることができます。

 これらは見た目は同じ「~抜く」ですが、意味も違いますし、その生産性も違います。「~抜く」が実質的な意味を持っているA群の動詞は生産性が低いですが、B群の動詞は生産性が非常に高いです。これは辞書に載っているかどうかともおおむねリンクします。実際、A群の動詞は辞書には載っていますが、B群の動詞は載っていません(明鏡)。
 後部要素が抽象的な意味になっているB群の動詞を全て辞書に載せると、辞書は動詞の記載だけで膨大な量になってしまうでしょう。そうするよりも、「~抜く」は”最後まで続ける”という意味があることを載せておけば、「走り抜く」「攻め抜く」「耐え抜く」は載せる必要がなくなります。実際この意味は「抜く」の項目に書かれています。

 複合動詞の後部要素はこのように意味と生産性の面で違いがあり、この点から影山(1993)は複合動詞と語彙的複合動詞と統語的複合動詞に分類しました。

語彙的複合動詞 統語的複合動詞
後部要素の意味 実質的な意味を保持している 抽象的な意味に変化している
後部要素の生産性 低い 高い

語彙的複合動詞

 後部要素の動詞が実質的な意味を保っているV+V型の複合動詞語彙的複合動詞と呼びます。語彙的複合動詞の後部要素は生産性が低く、それにつく前部要素はごく少数の動詞に限定されます。例えば「切る」は「断ち切る」「ねじ切る」などの動詞に限られます。前部要素の動詞の意味的な制限を受けるからです。

 撃ち抜く、引き抜く、くり抜く…
 断ち切る、ねじ切る、噛み切る…
 刺し通す、突き通す、押し通す…

統語的複合動詞

 後部要素の動詞が実質的な意味を失い、抽象的な意味に変化しているV+V型の複合動詞統語的複合動詞と呼びます。例えば「切る」なら完了の意味として使われることがあり、この意味のときは「走り切る」「喋り切る」「やりきる」「消し切る」「逃げ切る」などと多くの複合動詞が思い浮かびます。前部要素に置かれる動詞は語彙的複合動詞よりも多くあり、生産性が高いです。前部要素の動詞の意味的な制限を受けにくいからです。

 考え抜く、生き抜く、悩み抜く…
 走り切る、やり切る、逃げ切る…
 泣き通す、守り通す、貫き通す… 

参考文献

 影山太郎(1993)『文法と語形成』74-177頁.ひつじ書房




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