フィードバック(feedback)
第二言語習得(Second Language Acquisition:SLA)におけるフィードバック(feedback)とは、学習者の発話に対して教師が示す反応のことです。フィードバックは学習者の中間言語の発達を目的としており、SLAではどのようなフィードバックを行えば学習者が言語形式に注意を向け、中間言語の再構築を効果的に促せるかに関心を持たれています。
フィードバックは、学習者が発話した言語形式が目標言語の規範に沿い正しく適切であることを示す肯定的フィードバック(positive feedback)と、目標言語の規範にそぐわず不適切であることを示す否定的フィードバック(negative feedback)、もしくは訂正フィードバック(corrective feedback)に分けられます。前者は「いいですね」「正しいです」「そうです」や直接褒めるような形で実現され、後者は「違います」「間違いです」と明示的に訂正したり、間違っている部分を繰り返したり、教師が理解できなかったところを伝えたりするなどして様々な方法で実現されます。
訂正フィードバック
訂正フィードバックは次の2つの観点から分類されます。一つは教師が正用を提示するかしないかという観点で、教師が正用を提示して学習者のインプットを誘発しようとするものと、教師が正用を提示せずに学習者自身に自己訂正を促してアウトプットを促進させようとするものに分けられます。もう一つは学習者に誤用の存在をはっきり示すか示さないかという観点で、誤用の存在をはっきり示す明示的なフィードバックと誤用の存在を暗に示す暗示的なフィードバックに分けられます。正用を提示するものにも提示しないものにもそれぞれ明示的、暗示的なフィードバックが含まれるので、この2つの分類を表にすると次のようになります。
| 明示的なフィードバック | 暗示的なフィードバック | |
|---|---|---|
| 正用を提示してインプットを誘発 | 学習者:きれかったです教師:違います。「きれいでした」です。 | 学習者:きれかったです教師:そうですか。きれいでしたか。 |
| 正用を提示せずアウトプットを促進(自己修正を促す) | 学習者:きれかったです教師:「きれい」はナ形容詞ですよ。 | 学習者:きれかったです教師:きれかった? |
学習者の誤用「きれかったです」に対して正用を提示するフィードバックではいずれも「きれいでした」という正用を提示していますが、明示的なフィードバックでは「違います」とはっきり誤用の存在を明示しているのに対し、暗示的なフィードバックでは「そうですか。きれいでしたか。」と誤用の存在がほのめかされています。正用を提示しないフィードバックでは「きれいでした」という正用が教師から提示されることはありません。そのうち明示的なフィードバックでは「きれい」の品詞について触れて訂正を行い、暗示的なフィードバックでは「きれかった?」と学習者の誤用を繰り返して誤用の存在を暗示しています。
明示的なフィードバックは学習者に誤用の存在をはっきり認識させられるメリットがありますが、暗示的なフィードバックはそのフィードバックに学習者が気づかない可能性があり、フィードバックの効果が得られないこともあります。コミュニケーションの面でいうと明示的なフィードバックは会話の流れを止めるのに対し、暗示的なフィードバックはその流れを止めません。このように訂正フィードバックの種類によって得られる効果は異なります。
※正用を提示せずに自己修正を促すタイプのフィードバックをプロンプト(prompt)、誤りの部分のみを訂正して暗示的に正用を提示するタイプのフィードバックをリキャスト(recast)と言います。
参考文献
大関浩美(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』93-123頁.くろしお出版
小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』127頁.スリーエーネットワーク

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