指大辞と指小辞について
指小辞(ししょうじ)(diminutive)
指小辞(ししょうじ)(diminutive)とは、名詞・形容詞・副詞などについて、それらの語が指す事物の大きさや程度が小さいことを表す接辞のことで、縮小辞とも呼ばれます。そのような接辞がついた派生語そのものを指小辞と呼ぶこともあります。指小辞は主に口語や俗語で用いられ、指小辞が表す大きさや程度の小ささは、事物の可愛らしさや愛着、あるいは事物に対する軽蔑を表します。
(1) 小鳥
(2) こじゃれている
(3) 舞ちゃん
(4) 犬っころ
(5) 虫けら
日本語だと「小~」 や愛称に使われる「~ちゃん」のほか、「犬っころ」「石ころ」の「~ころ」や「虫けら」の「~けら」などの接頭辞、接尾辞に指小辞の例が見られます。「小~」でいうと「小汚い」や「小賢しい」などが軽蔑を表す例です。
(6) Kitt-y(子猫ちゃん)
(7) Bill-y(人名)
(8) Dogg-ie(ワンちゃん)
(9) Bird-ie(小鳥)
(10) kitchen-ette(簡易キッチン)
(11) book-let(子冊子、パンフレット)
(12) maid-en(未婚女性)
(13) animal-cule(微小動物)
英語では -y や -ie等をつけることで幼児語や愛称になる例がみられます。
津軽弁の指小辞
津軽方言は多くの名詞の後ろに「~コ」や「~ッコ」を規則的につけて、その事物が小さくて愛らしいもの、大切なものという親しみの感情や美化的な意味を表す指小辞の例が多くみられます。以下は津軽方言(五所川原方言)の例です。( )内は訳。
ネゴッコ(猫)、ブヅダンコ(仏壇)、アダマコ(頭)、ケンドコ(道)、ジェンコ(お金)、ヨメコ(嫁)、スガマコ(つらら)、ハナシコ(話)、コップコ(コップ)、マレコ(主に動物の赤ちゃん)…
基本的には不快と感じるものにはつかないので、「ドロボコ(泥棒)」みたいな言い方はできません。ただし、一般に不快なものであったとしても話者が親しみを感じるような場合は「~コ」をつけられます。次の例をご覧ください。
(14) 部屋ソンドコだ(部屋が汚いぞ)
(15) そごの猫クソッコしてらべ(そこの猫糞してるな?)
(16) あんらあ、カゼコ引いでまったのが(あらまあ、風邪引いちゃったの?)
(17) そこのいぇソウシキコあったど(そこの家葬式があったんだって)
※うちの母親は「人生」や「未来」のような目に見えないものを表す名詞には「~こ」をつけられないと内省します。
指大辞(しだいじ)(augmentative)
指大辞(しだいじ)(augmentative)とは、名詞について、それらの語が指す事物が大きいことや、程度の高さ、強さ、激しさ等を表す接辞のことで、拡大辞や増大辞とも呼ばれます。そのような接辞がついた派生語そのものを指大辞と呼ぶこともあります。指大辞は口語や俗語でその大きさに対する賞賛や非難を表しますが、指小辞ほど多くはありません。
(18) casone(大きな家)-case(家)
(19) librone(大きな本)-libro(本)
(20) omone(大男)-uomo(人、男)
(21) Carlone(でかいカルロ)-Carlo(カルロ:人名)
日本語にも「大海嘯」「大海原」の「大(だい)~」「大(おお)~」等が指大辞と言えそうです。
参考文献
小笠原功(2001)『津軽弁の世界〔完〕』319-320頁.北方新社
亀井孝(著)・河野六郎(著)・千野栄一(著)(1996)『言語学大辞典 第6巻』638,650-651頁.三省堂
平山輝男・佐藤和之(2003)『日本のことばシリーズ2 青森県のことば』38頁.明治書院
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