形容詞とは?

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形容詞(adjectives)

 典型的には概念の性質、状態、属性を表す品詞形容詞(adjectives)と呼びます。日本語では「高い」「若い」「おいしい」「きれい」などが一応の形容詞の範疇に含まれます。統語的には「とても高い」「非常に若い」などと程度副詞と共起することができ、この特徴は二大品詞である名詞と動詞にはありません(「*とても水」「*とても渡る」)。日本語には、その形態的特徴から名詞に近い形容詞である形容動詞ナ形容詞)と動詞に近い形容詞である形容詞イ形容詞)の2種類の形容詞があり、Wetzer(1996: 271)はそのような2種類の形容詞を持つ言語は日本語を含めて12あると報告しています。

continuum hypothesis(連続相仮説)

 名詞、動詞、形容詞などの品詞は独立しそれぞれはっきりとした境界線を持っているという考え方に対して、名詞から動詞までの連続体の中間に形容詞が存在するとする品詞の捉え方continuum hypothesis(連続相仮説)と呼びます。上記の図でいうと、左に向かうほど名詞性(nouny)が増加、右に向かうほど動詞性(verby)が増加します。例えば「平等(な)」「平和(な)」などのナ形容詞は、それ自体が名詞として働き、述語では基本的に名詞と同じ判定詞を要求します。このことはナ形容詞がどちらかというと名詞性を帯びていることを示します。またイ形容詞は動詞と同じく屈折し、時制を表す接辞がつくなどの共通を持つために動詞性を帯びた形容詞と捉えられます。
 名詞「美人」「問題」「ヤンキー」などの連体修飾で「な」が現れることがあるのもこの仮説の主張を支える根拠の一つになりそう。

Wetzer(1996)の形容詞類型

 全ての言語には形態統語的に区別される名詞と動詞という二大品詞がありますが、一般に形容詞は名詞や動詞とは異なり、独立した品詞を構成しません。Wetzer(1996)は諸言語の形容詞を観察して類型論的分析を行い、形容詞は通常名詞あるいは動詞と形態統語的な類似性を示す傾向があることを明らかにしました。(ここでは類型にだけ触れます)

 continuum hypothesis に基づく諸言語の形容詞の位置を明らかにするためには、形容詞が名詞と動詞のどちらに形態統語的な類似性を示すか見なければいけませんが、その前提として、比較対象となる名詞と動詞の形態統語的区別をはっきりさせる必要があります。まずはこの観点から、名詞述語と自動詞述語の間に比較的明確な形態統語的区別が見られる言語を type-A 、見られない言語を type-B と大別しました。type-A の言語は名詞と動詞の違いが明確なので、形容詞の形態統語的特徴がどちらに寄っているかを判別しやすいグループです。うち、形容詞が名詞への指向性を示すものを Nouny languages、動詞への指向性を示すものを Verby languages と呼びます。加えて type-A には名詞への指向性と動詞への指向性が混在する言語もあり、これらは Mixed languages と呼ばれます。Mixed languages はさらに、そのどちらも持つ言語である Split-adjective languages と、ある形容詞が環境によって名詞と同等に扱われたり、動詞と同等に扱われたりする Switch-adjective languages の下位分類があります。ちなみに日本語は Split-adjective languages に分類されます。
 type-B は名詞述語と自動詞述語の形態統語的特徴がかなりの程度似ているため、形容詞が名詞と動詞のどちらに寄っているか判断できないタイプを指します。

参考文献

 八亀裕美(2007)「形容詞研究の現在」『日本語形容詞の文法-標準語研究を超えて-』53-77頁.ひつじ書房
 Wetzer, H. (1996) The Typology of Adjectival Predication. Mouton de Gruyter




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